第8回勉強会 担当:黒河志保
テーマ:森口 覚,栗原佳子
「栄養学からのアプローチ」
『臨床スポーツ医学 (Vol.19,No.11,2002)』1325-1331
運動が宿主免疫能に対して強い影響を有することは周知の事実であるが、運動だけでなく栄養もまた宿主免疫能を保持する上で重要な因子となる。
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これまでの先行研究から、栄養欠乏時や逆に肥満等の栄養過剰時には免疫能が低下することが見出されている。
本稿では、
- 運動に伴う免疫低下を栄養によって改善、防止できるか
- 栄養過剰としての肥満に伴う細胞性免疫能低下に対する運動効果ならびに加齢やエイズにおける免疫低下に対する運動および栄養補足効果に着目し、論を進めていく。
≪運動に伴う免疫低下と栄養補足≫
これまで、運動後に免疫低下が起こる機序として以下のような関与が示唆されている。
1)運動に伴う免疫細胞の質的変化
2)免疫系に対して抑制作用を示すホルモン分泌の亢進
3)免疫系に対して抑制的に働く液性因子の産生亢進
現在、先行研究から一過性運動負荷に伴う免疫低下を栄養学的に制御できる可能性が
見出されている。
Gleesonらは、上述の1)との関連において――
食事中の炭水化物含有量を増加することで、運動後の好中球比率の上昇が抑制されること、運動負荷直後にみられるTリンパ球機能の低下が防止できる可能性などから、一過性運動負荷に伴う末梢血中の白血球の質的(数的)変化を制御可能であることを示唆。
また、2)に関しては――
炭水化物摂取により運動後の末梢血T細胞増殖能が維持されたことに対する機序として、高炭水化物食摂取が運動に伴う血漿コーチゾールの上昇を抑制することを示唆。
その他、上述3)との関連について――
*運動後の血漿PGE2濃度とNK細胞活性(以下NK活性)変化の一致
*高ビタミンE摂取により運動負荷に伴う血漿PGE2濃度の上昇の抑制とNK活性の低下が軽減
≪肥満に伴う免疫能低下と運動≫
栄養過剰状態の1つである肥満時にみられる免疫低下やダイエットに伴う免疫低下を運動トレーニングが改善あるいは防止することがわかってきている。
- *肥満モデル動物(Zuckerラット)を用いた実験
- ⇒肥満によるT細胞の機能低下が運動トレーニングにより改善
それがT細胞膜上に発現する糖輸送担体(GLUT-1)発現の改善と関連
- *肥満女性……「ダイエット単独群」 と 「ダイエット+運動群」
- ⇒「単独群」ではNK活性の有意な低下を認めたのに対し、「ダ+運群」では
- NK活性の低下はほとんどみられず、活性は減量開始前とほぼ変化なし
≪加齢に伴う細胞性免疫能低下と運動・栄養補足効果≫
高齢者においては、一般的に体液性免疫が保持されているにもかかわらず、T細胞を中心とする細胞性免疫の低下は顕著であり、加齢に伴う胸腺の萎縮と関連することが知られている。
- *加齢に伴う胸腺でのT細胞の分化・成熟の低下が高ビタミンE摂取により改善
- ⇒ビタミンEによるポジティブセレクションの亢進による
- *血漿ビタミンE濃度と末梢血T細胞増殖能との間に正相関
- 血漿一酸化窒素(NO)濃度と血漿ビタミンE濃度、末梢血T細胞増殖能との間に負の相関
- ⇒高いビタミンE状態は、血中の活性酸素の一種でPGE2合成を亢進することが知られる
NOの上昇を抑制→ → 細胞機能の亢進が誘導された可能性
- 身体活動―――
*血漿NOが濃度が低値である者ほど免疫能は保持されている。
*日常生活活動ができなくなるとNK活性が有意に低下。
栄養学的には―――
*ビタミンE、Cなどの抗酸化ビタミンの十分な摂取がPGE2産生の高い高齢者に とっては肝要。
≪エイズにおける免疫低下と運動および栄養補足効果≫
体内で産生される活性酸素がエイズウイルスの増殖を高めることが報告されていることから、HIV感染者の多くがビタミンC、Eおよびβ-カロテンなどの抗酸化ビタミンなどの摂取を積極的に実施している。
身体活動―――
*マウスエイズ(MAIDS)進展に伴う脾臓の腫大化が運動トレーニングにより抑制
栄養―――
*標準食の10倍量のビタミンを含む高ビタミンE食投与
⇒運動トレーニングによるものと同程度の(マウス脾臓の腫大化)抑制
運動+栄養―――
*運動トレーニング+高ビタミンE食……(マウス脾臓の腫大化)相加的抑制
⇒運動トレーニングとビタミンEが異なる機序によりマウスのエイズ進展を抑制する可能性
▼ 以上の結果は運動だけでなく栄養をも加味することにより、宿主免疫能がより効率的に亢進される可能性を示唆している。
今後は、「運動、栄養、そして免疫」の三者を総合的に健康保持・増進の観点から、活発な研究が展開していくことが期待される。
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