Japanese Society of Exercise and Immunology
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国際運動免疫学会会誌
Exercise Immunology Review
ISSN 1077-5552

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日本運動免疫学研究会



 若手のための運動免疫勉強会

第5回勉強会  担当:渋沢謙太郎

テーマ:
町田和彦
運動は免疫能を高めるか? 「メカニズムをさぐる III 好中球」

臨床スポーツ医学 19(11):1303-1309,2002

(概要)
1.はじめに
 ヒトの好中球は白血球の中でも顆粒球に分類され、その大半を占めている(正常値40~70%)。好中球の主な役割は生体防御機能であり体内に侵入してきた病原微生物を中心とする異物を貪食し自らが発生させた活性酸素によってそれを殺菌する。しかしながら活性酸素は非常に酸化力が強いため異物の排除に有効な反面、正常な組織にも障害を与えることや過酸化脂質の生成を促し動脈硬化をはじめとして種々の疾病の原因にもなるというマイナスの側面ももっている。ここでは運動が好中球機能に及ぼす影響を中心に論を進めていく。

2.生体防御機能における好中球の役割
 生体防御機能は大まかに特異免疫能と非特異免疫能に分類ことができる。特異免疫能とはある特定の異物に対してはそれに対応した特定の細胞が作用するものであり、主にナチュラルキラー細胞を除いたリンパ球によって担われている。これに対して非特異免疫能とは体内に侵入するあらゆる物質を排除しようとするものであり、好中球やマクロファージがこれにあたる。好中球は骨髄の多能性幹細胞から分化し、成熟するにしたがって循環血液中にみられるようになる。その寿命は短く循環血液中においては6時間程度とされ組織に移行した後にも1~2日でアポトーシスにより細胞死する。このように短命であることは好中球が産生する活性酸素(スパーオキシドアニオン、過酸化水素、ヒドロキシラジカル など)が異物の排除に有効な反面、必要以上の産生により生体にダメージを与えることがあるため、その防御策であると考えられる。

3.好中球機能の測定法と好中球機能の効率化
 以上のように好中球の機能は生体にとって良い面と悪い面を併せ持つ諸刃の剣であるといえよう。したがって好中球の機能を測定する際も単に活性酸素産生量の多少のみを論じることはあまり意義が無い。そこでこの問題の解決に有効な測定法としてNBT法が挙げられる。NBT法は通常、黄色ブドウ球菌を貪食させて行なう貪食試験とそうでない非貪食試験の2種類が行なわれ、細菌侵入時の活性酸素産生能と侵入を受けていないときのそれを測定することができる。この結果から細菌の貪食能と貪食によって起こった活性酸素の産生量を得ることができる。生体にとって望ましいことは活性酸素が異物の貪食量に応じて産生されることであり、それはこの試験で得られた細菌貪食能と活性酸素産生能とが正の相関をなしていることにつながる。
 このように好中球機能の評価を行なう際には細菌貪食能と活性酸素産生能との相関を検討することが妥当であり、そしてこの好中球機能に影響を及ぼす要因として運動やストレスが挙げられる。動物実験によると自由運動をさせた群は細菌貪食能と活性酸素産生能とのバランスが取れているのに対して、心理的・物理的ストレスを負荷された群はそうではないことが報告されており、またヒトを対象とした研究においても自覚的ストレスが低い群はこのバランスが取れているのに対して、自覚的ストレスが高い群はそうではないこと、ストレス耐性度が高い群はバランスがとれているが低い群はそうではないことが報告されている。このように好中球機能はライフスタイルと密接に関わっておりそれが良好な場合は生体に対して効率的に働くが、そうではない場合は悪影響を及ぼすことが分かっている。つまりライフスタイルによっては細菌貪食能と活性酸素産生能のバランスが崩れ殺菌に必要な活性酸素量が不足する、また必要以上の活性酸素産生によって生体にダメージを与えるなど好中球機能に乱れを生じさせるのである。

4.運動と好中球機能
 好中球機能は主に運動の強度によって異なる影響を受けている。ここではチャンピオンシップスポーツなどに見られる高強度の運動の場合と、レジャー・レクリエーション志向の中等度の運動に分けて見ていくこととする。短時間高強度の運動において活性酸素産生は亢進し、また1時間以上の持久運動の場合にもそれが最大酸素摂取量の55%以上の強度においては活性酸素産生の亢進がみられることが報告されている。またこのような激運動後には細菌貪食能と活性酸素産生のバランスが崩れ、前述したような種々の弊害を生体に及ぼすことが示唆される。加えて日本おけるチャンピオンシップスポーツには運動による肉体的ストレス以外にもしごきや上下関係などの精神的ストレスが生体に加わるため、このことを強めていると考えられる。
 一方、レジャー・レクリエーション志向の中等度の運動の場合はどうであろうか。一般に最大酸素摂取量の50%以下の持久運動では活性酸素の強力な亢進が見られない上に、化学走化性、貪食、酸素代謝物の放出といった好中球機能が亢進するといわれている。さらに動物実験では適度な運動による生体の適応として細菌貪食能と活性酸素産生能のバランスがとれ生体にとって望ましい状態になることや、好中球機能に対するストレスの耐性が高まることが認められた。以上のように適度な運動は好中球機能の効率化をもたらすが、これは他の免疫機能や病気の進行に対しても有効的に働く。例えば上気道感染症であるが適度な運動によってその頻度が半減しているとの報告がなされており、またNK活性、T細胞機能、肺胞マクロファージ機能、免疫グロブリン機能血中濃度の上昇などが示されている。また腫瘍を接種したラットの実験においても自由運動をさせた群は運動をさせない対照群に比べても腫瘍の大きさが1/2にすぎないことや、くわえて好中球機能、NK活性、幼若化試験の成績においても良好な結果を示していた。しかしながらストレスを負荷された群は逆に腫瘍の有意な増加、また好中球機能、NK活性の有意な減少が認められた。

5.まとめ
 以上、好中球機能と運動の関係を中心としストレスとの関係も加えて論を進めてきた。細菌貪食に見合った活性酸素の産生がおこることが好中球機能として、またそれが生体に及ぼす影響として望ましいがこれは主に運動の種類によって種々の異なる影響を受ける。チャンピオンシップスポーツの場合は、パフォーマンス向上のためにどうしても高強度の運動にならざるを得ない。また、このような生体に対する肉体的ストレスにくわえて日本の場合は競技にともなう精神的ストレスも見逃すことができず、これらが好中球機能に悪影響を及ぼす。
 一方、レジャー・レクリエーション志向の運動の場合は比較的、生体に対する負担が少ないこと、また楽しみながら行なうことによってストレス解消にもなると考えられることなどから好中球機能に良好な影響を及ぼす。


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