Japanese Society of Exercise and Immunology
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国際運動免疫学会会誌
Exercise Immunology Review
ISSN 1077-5552

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日本運動免疫学研究会



 若手のための運動免疫勉強会

第3回勉強会 担当:黒河志保

テーマ:
永富良一
運動は免疫能を高めるか? 「メカニズムをさぐる Ⅰ リンパ球・NK細胞」

(『臨床スポーツ医学(Vol.19,No.11,2002)』p1289‐1295)

概略は以下の通りです。

1.リンパ球の分類
 リンパ球は、抗原特異的で多彩な免疫応答を演出する細胞群である。
大きく分けると → → → T細胞 と B細胞
〇T細胞 …… 胸腺(Thymus)内でヘルパーT細胞 と 細胞傷害性T細胞に分化
       胸腺外で分化するリンパ球もある = γδT細胞

ヘルパーT細胞は、免疫調節機能をもつ。
             ↓
抗原に接したことのないナイーブT細胞(Th0) と 抗原に接触したことのあるメモリーT細胞(Th1、Th2)に分けられる。
⇒ ナイーブT細胞は、抗原刺激を受けるとメモリー細胞に分化する。
  メモリーT細胞は、さらにTh1細胞 と Th2細胞とに分けられる。
  Th1細胞 … 炎症性サイトカインを分泌
  Th2細胞 … 抗体産生誘導に関与するサイトカインを分泌
Th1とTh2は、通常過剰な反応が起こらないようにお互いが出すサイトカインによって平衡状態が保たれている。

〇B細胞 …… 抗体産生細胞や抗原提示細胞として機能する。
                  ↓
抗体分子IgMを表面にもち、抗原刺激を受けると二次リンパ組織で抗体産生細胞(=形質細胞(プラズマ細胞))に分化する。
抗原分子を結合したB細胞自身が抗原提示細胞としてT細胞を活性化させる。

〇NK細胞 … 非T非B細胞系のリンパ球
ある種のウイルスに感染した自己細胞や腫瘍化して変異した自己細胞を破壊する。
IFNγを分泌することにより、細菌感染したマクロファージを活性化→菌排除、ヘルパーT細胞の分化促進。
また、NK細胞でもT細胞受容体をもつものを NKT細胞 という。細胞傷害機能をもつ。
IL-4を分泌→IL-4を分泌するヘルパーT細胞の分化促進。

2.生体内の役割
 リンパ球・NK細胞が機能しなくなった場合――
1)ヘルパーT細胞(CD4T細胞)の欠損
 例:後天性免疫不全症候群(AIDS)
   →日和見感染が容易に起こる
     悪性腫瘍  

  • ⇒上記の症状には、CD4T細胞の欠損の結果、CD8T細胞も関わっている。
  • 抗原特異的CD8細胞の維持にはCD4T細胞が必要である。
  • CD4T細胞は直接細胞傷害活性をもたないので、CD8細胞傷害性T細胞を維持することで腫瘍の発生を妨げているものと考えられる。

2)NK活性の欠損
 例1:先天的な欠損家系
   →重篤なヘルペスウイルス感染症を反復
 例2:NK活性欠損マウス
   →静脈投与した腫瘍細胞の排除が行われない

3.免疫応答の場
 ヒトの生体機能の評価において血液は有用な情報源となるが、リンパ球・NK細胞の機能や数の変化を評価する際にも、それらの細胞が いつ どこで 機能するかを考慮することが重要である。
 Tリンパ球が関与する免疫応答は抗原特異的であることから、その経時的変化は重要である。
 また、カテコールアミンは血中のリンパ球数を増やし、副腎皮質ホルモンは循環リンパ球を減少させるが、前述のAIDSにおけるCD4T細胞の絶対数が血液も含む全てのコンパートメントで減少するのに対し、これらの変化は可逆的であり、体内分布の変化によるものと考えられる。
 血中リンパ球・NK細胞の数は、自律神経および副腎皮質ホルモンの日内変動に対応した変化もまたみられる。
 例えば、オーバートレーニングの初期あるいはオーバーリーチング時には交感神経優位な状態が続くことが知られているが、これらの状態によって日内変動にひずみが生じ、免疫応答の偏りが起きる可能性がある。

4.運動による変化
【運動に伴うリンパ球の変化に関する報告】
~中等度、1回の運動負荷 → ほとんど変化みられず
高強度、1回の運動負荷 → CD4陽性細胞の減少、増殖応答の低下
これらの変化はいずれも運動終了時にみられることが多く、運動終了約2時間後には前値に復することが多い。
また、運動に伴うリンパ球の変化が、運動強度よりは運動に対する個人の視床下部・下垂体副腎系のストレス感受性に依存することを示唆する報告もある。 → 「免疫力」をどのように左右するのか?

5.「免疫力」の疫学的な評価
【免疫学の評価に関する問題】

  • 特定の疾患を除いて、各免疫指標の変化の意義を一般化できるレベルでほとんど検証されていない
  • 免疫学の疫学的評価の困難さ → 何をエンドポイントとするのか
  • リンパ球やNK細胞の評価方法(検体採取方法、保存、結果の再現性、施設間の相違etc.)

【今後の課題】
環境要因による変化と、抗原特異的な変化がどのように影響を及ぼしあうのか?
⇒ メカニズムの解析+長期間のコホートの観察 → → → 「運動は免疫力を高めるのか?」という問いへ

●〇●今回のテーマに関連して皆様から出された疑問、解説など●〇●
・ MHC(主要組織適合遺伝子複合体major histocompatibility complex)に関して

  • MHCクラスⅡ分子の抗原提示のメカニズム
  • MHCによるT細胞への抗原提示
  • MHCのもつ遺伝的多様性と抗原提示機能の2つの側面はメカニズムからみて関連があるのか?

・ NK細胞に関して

  • NK細胞が防御システムの初期段階で機能することと、運動に対する反応の早さには関連があるのか?
  • 運動強度に関連したNK細胞のレスポンスの速さの意義、メカニズムは?
  • LGL(large granular lymphocytes)にNKT細胞は含まれるのか?
  • NK細胞とウイルス感染の初期防御…ウイルスとMHCの発現程度の関連
  • CD8+T細胞とNK細胞

●〇●今回のテーマに関連して皆様から出された疑問、解説など●〇●
・ MHC(主要組織適合遺伝子複合体major histocompatibility complex)に関して

  • MHCクラスⅡ分子の抗原提示のメカニズム
  • MHCによるT細胞への抗原提示
  • MHCのもつ遺伝的多様性と抗原提示機能の2つの側面はメカニズムからみて関連があるのか?

・ NK細胞に関して

  • → NK細胞が防御システムの初期段階で機能することと、運動に対する反応の早さには関連があるのか?
  • 運動強度に関連したNK細胞のレスポンスの速さの意義、メカニズムは?
  • LGL(large granular lymphocytes)にNKT細胞は含まれるのか?
  • NK細胞とウイルス感染の初期防御…ウイルスとMHCの発現程度の関連
  • CD8+T細胞とNK細胞

●〇●第3回勉強会の感想(担当者)●〇●
今回はリンパ球とNK細胞という、免疫系の中でも多彩な働きを担っている細胞群が勉強会の主役となりました。
議論や疑問、また個人が勉強した内容の提示など、意見交換も活発に行われ、メカニズム、評価の観点や方法についてなど、これからの課題が明確にされた一方で、改めて免疫学のおもしろさを実感しました。


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