Japanese Society of Exercise and Immunology
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国際運動免疫学会会誌
Exercise Immunology Review
ISSN 1077-5552

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日本運動免疫学研究会



 若手のための運動免疫勉強会

第1回勉強会 担当:小川貴志子

免疫学の最近の動向 -QOLと免疫-
宮坂信之 『臨床スポーツ医学11月号(Vol.19, No.11,2002)』1277-1282 より

(概略)
免疫とは、外界からの異物の侵入に対する防御機構である。
免疫系は、神経系や内分泌系など他のシステムと連動して働いており、過度のトレーニングのような肉体的、精神的ストレスは免疫系の機能低下を招くことになる。
免疫は、自然免疫と獲得免疫に大別される。

 「自然免疫」の特徴は、1.生まれた時にすでに存在している。2.微生物の侵入に直ちに作用する。3.特異性や記憶を持たない。などで、自然免疫に関与する細胞は、好中球、好酸球、好塩基球、マクロファージ、肥満細胞、NK細胞などである。
 「獲得免疫」の特徴は、1.成長とともに発達する。2.特定抗原の侵入に対応するリンパ球の増殖、抗体の産生により、抗原の再侵入に対応する。3.特異性と記憶を持つ。などで、獲得免疫に関与する細胞は、T細胞とB細胞である。

免疫は、異物の種類や大きさにより動員される免疫細胞が異なる。
 「局所免疫」は、異物の侵入に局所で働くメカニズムである。1.表皮の角質、2.表皮のpH、3.正常細菌叢、4.涙、唾液、粘液、尿など体液による洗浄、5.繊毛、6.体液中のIgA、7.体液中の抗菌物質(リゾチーム、デフェンシン、ラクトフェリン、ペプシンなど)

「化膿菌(ブドウ球菌、連鎖球菌、緑膿菌、大腸菌)」に対する防御のメカニズム
 1.好中球が担う。2.化膿菌の侵入により走化因子が産生される→好中球が病変部位に呼び寄せられる(遊走)→抗体や補体のレセプターを介して、好中球は細菌を細胞内に取り込む(オプソニン作用:異物に抗体や補体が吸着して食細胞の貪食を助ける作用)→取り込まれた細菌は食空胞(ファゴゾーム)に入り、活性酸素、殺菌物質、タンパク分解酵素などにより破壊される。細菌(髄膜炎菌、淋菌)によっては、細菌表面に結合した抗体により、補体が活性化され、細胞表面に穴があけられ破壊される。

「細胞内寄生菌(結核菌、サルモネラ菌、リステリア菌、らい菌)・真菌(カンジダ、アスペルギルス)その他原虫(マラリア、トキソプラズマ、カリニ原虫)」に対する防御のメカニズム
 1.マクロファージが担う。2.マクロファージは、様々なレセプターを用いて微生物を細胞内に取り込み、殺菌するが、その際T 細胞は、IFN-gammaを産生して、マクロファージを活性化する。

「ウィルス」に対する防御のメカニズム
 1.NK細胞、キラーT細胞、K細胞が担う。2.NK細胞は、NKレセプターを介してウィルス感染細胞に結合し、殺傷する。NK細胞は、パーフォリンとグランザイムを産生し、標的細胞に穴を開けて細胞を傷害する。感染初期に働く。3.キラーT細胞は、ウィルス感染細胞上のウィルス特異抗原を認識し、標的細胞を傷害する。感染から数日を要する。4.K細胞は、Fcレセプターを介して抗体が結合した標的細胞を傷害する。5.ウィルス感染を受けたマクロファージはIFN-gammaを、繊維芽細胞はIFN-alfaを産生し、NK細胞とT細胞を活性化する。6.中和抗体は、ウィルスに結合して不活性化させる。これを利用したものがワクチン接種である。特異的抗体産生を誘導するワクチンは、インフルエンザ、ポリオ、B型肝炎。特異的キラーT細胞を誘導するワクチンは、麻疹、水痘、流行性耳下腺炎。

「Toll-like receptor (TLR)」
自然免疫のメカニズムの中で、病原体の認識に重要な分子として近年TLRが注目されている。TLRは、炎症性のサイトカインを誘導し、これらサイトカインは、生体の炎症反応惹起、病原体の貪食、消化促進に関与する。また、TLRは副刺激分子(CD80,CD86リンパ球に活性化シグナルを送る)の発現を誘導し、リンパ球の活性化をも促す。
 自然免疫は、獲得免疫が働く以前に機能する免疫機構ですが、獲得免疫は自然免疫を基盤に構築されており、獲得免疫の活性化のためには自然免疫の活性化が必要です。この自然免疫と獲得免疫の連携を担っているのが、樹状細胞などの抗原提示細胞です。TLRは、この樹状細胞やマクロファージに発現しており、TLRが病原体を認識して樹状細胞を活性化し、副刺激分子の発現を誘導し、T細胞を活性化(すなわち獲得免疫の活性化)を促します。

この内容に関して、以下のような質疑応答が出されました。(要約)

Q1. 好中球が異物を貪食する際にそれに結合している抗体を認識し貪食するとあります。この抗体とはIgGのことだと思うのですが、このIgGは獲得免疫に分類されているB細胞をもととした抗体産生細胞が産生するものではなかったのでしょうか。好中球などの自然免疫は異物侵入時には獲得免疫よりも時間的に早い時期に働く系であります。その自然免疫系が働いている時にすでに獲得免疫系由来の抗体が登場しているということはなぜでしょうか。(渋沢)

A1-1.好中球が異物侵入時にオプソニンとしてすぐ使用するIgGは、過去にB細胞によって産生されたものでしょう。そのようなIgGが血清タンパクの1/5も大量に多種類保持されていて、大概の異物が入ってきたときにすぐオプソニンとして使われるように準備されているわけです。しかし過去に抗原が侵入した免疫学的記憶がなければ、すぐIgGを使えないので、一から免疫応答が開始されて侵入異物を攻撃する免疫系の体制を整備するのに時間がかかってしまい、抗原が病原微生物なら重症化することになるわけです。(鈴木)

A1-2. 好中球の自然免疫ならではの反応は、オプソニン化(補体の活性化)の過程で抗体に依存ない第二経路による素早い異物の捕食であること、また、好中球は抗体のFc部を認識し、たとえば、抗体が捉えたAという抗原にも、Bという抗原にも、Cという抗原にも、抗体がIgGかIgMであれば相手を選ばず(非特異的)果敢に貪食で応戦し、獲得免疫の最終段階としても抗体のFc部を認識する機構で一役買っている。(山崎)

Q2. IgMは何のために5量体の形をとっているのでしょうか?感染初期(一次応答)に産生されるため、抗原結合部位を多くして効率を高めるために?(黒河)

A2. IgMが5量体をとっている理由は、ご指摘の通り感染初期(一次応答)において産生されるため、抗原結合部位を多くして抗原補足効率を高め、なおかつ補体結合能によって、異物の溶解を効率的に行うと考えられています。しかし補体系が働くと、種々の補体分解産物(アナフィラトキシン)が生じ、場合によってはアナフィラキシー(血圧低下によるショック症状)を誘導したりするので、より異物に対して特異的な攻撃ができるように、抗体産生細胞はIgMからIgGへと抗体産生をクラススイッチしていきます。

(この問題をめぐってその他のコメント)
 1)自然抗体がどんなレパートリーの抗体なのか、私も興味あるところです。血液型抗体も自然抗体といえます。
 抗体は抗原の暴露があってはじめて作られるというイメージをもっている人も多いと思いますが、元々抗体をコードする遺伝子は遺伝子組み換えによりおよそ2000万通りの異なる可変領域遺伝子を持ちうることが推測されています。B細胞分化の伴い、この可変領域を持つ抗原受容体(IgM分子)が発現します。この中で組織あるいは細胞表面の自己抗原に反応するIgMを持つものはアポトーシスに陥りクローンが消失します。血中タンパクなどの可溶性の自己抗原に対しては反応しなくなる状態すなわちアネルギーが成立すると考えられています。これらの反応は骨髄で行われると考えられています。残ったどこにも反応できないものが、末梢リンパ節に以降するわけです。このうちのどのクローンが抗原暴露なしに形質細胞にまで分化して自然抗体を作るのかは、私は聞いたことがありません。どなたか知りませんか?
 2)「抗原が排除される」といった表現がどこかで使われたように記憶していますが、こう書くと抗原=病原体といったイメージを持つ人がいるかもしれません。でもいわゆる病原体といわれているものはほとんどの場合ウイルス、細菌、真菌などです。これらはタンパク質、糖脂質、糖鎖などを表面にもっていますが、抗体が認識する構造はアミノ酸わずか数個に対応するといわれています。したがってウイルスのように小さくても抗体が結合する部位は複数あるわけです。このような構造のことを病原体上の抗原決定基といいます。ちなみにウイルス防御にとって重要な抗体は、ウイルスに結合する抗体なら何でもよいわけではなく、ウイルスがウイルス受容体に結合する部位を覆ってしまう抗体です。たとえばB型肝炎ウイルスの抗体ではHBs抗体が誘導されると肝炎が治癒しますが、HBc抗体、HBe抗体などは治癒に結びつきません。ちなみにウイルスは細胞膜をもちませんから、補体が活性化しても穴はあきません。したがって直接補体で壊されることはないわけです。細菌ともなればいくつも抗体ができますし、補体結合活性のある抗体であれば、細菌を壊すことが可能になるわけです。
 3)IgGによるオプソニン化を受けた細菌が好中球に貪食される反応が自然免疫か獲得免疫かというのは不毛な議論だと思います。自然免疫、獲得免疫は研究者が勝手に分類したものですし、実際には小川先生がおっしゃったように協力関係にあるわけです。また獲得免疫とはいえ、(1)で紹介したように抗体そのものは抗原に関わりなしにできたものなわけです。ですから渋沢君が、疑問に思ったことはとてもよいことに気がついた、すなわち研究者が勝手に分類したものが、理屈に合わないということに気がついたという点で大変すばらしいことだと思います。われわれにはこういう固定観念にとらわれない自由さが必要です。Criticismは研究者の原点です。
 4)IgGの各サブクラスの補体結合能をはじめとする特性と、Th1,Th2のバランスの関係も考えると大変うまくできています。興味ある方は教科書を読んでみてください。(永富)

(今後の課題)  「自然免疫と獲得免疫における免疫グロブリンの役割」(仮題)と題して文章をまとめてください。(鈴木)


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